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市報松江 2012.10
コラム 神国の首都

 舞台は16年前、 オーストリアは首都のウィーン。と、ある部屋でミュージカルの作曲に想を練る日本人男性がいました。かの国の招聘しょうへいを受けて国立音楽大学の給費研修生として、ウィーンの地を踏んで間もない島大講師。 取り組むミュージカルのテーマは、オーストリアから1万キロ以上離れた日本の、しかも古事記に出てくる「黄泉比良坂」でした。ピアノのない部屋で、渡欧前にもらった資料を見、足を運んだ「黄泉比良坂」を思い浮かべ、イメージを膨らませては小さなキーボードを頼りに曲を作り上げる。全16曲。1曲仕上げては郵便局へ。正確を期すためにファクスは使わず、 依頼を受けた東出雲町の担当者に航空便で届けるという作業が幾度となく繰り返されました。
 日本の国を形作る島々と森羅万象の神々を生んだイザナキ、イザナミの神。古事記によると、火の神を生んで亡くなったイザナミ会いたさに黄泉の国に行ったイザナキは、変わり果てたイザナミの姿に驚いて逃げ去ります。 追いすがるイザナミをイザナキが千引岩でふさぎ、別れの場所となったのが東出雲町平坂の「黄泉比良坂」とされています。日本の国が生まれ、死生観や輪廻りんね転生の始まりともいえる物語を、はるか異国の地で、望郷の念を抱きながら曲に仕上げるという、まか不思議さ。現在、島大教育学部で教べんを執る河添達也教授 (50) にとって、恐らく終生忘れることのできない、また多分二度とはない体験ではなかったのでしょうか。
 時は流れて今年10月、このミュージカル曲が松江市殿町の県民会館大ホールに響き渡ります。生みの親の河添教授が音楽監督として島大管弦楽団、島大声専合唱団を指揮。 東出雲町民を中心にしたオーディションで選ばれた小中学生たちが神々などにふんして踊り、合唱を披露します。16年前にミュージカル公演を企画・出演し、河添教授に作曲を頼んだ人たちも、演技指導や小道具や衣装作りなどで下支えします。
 ハイレベルにして、すべてが手作りという異色なミュージカル。河添教授は、その意義、意味をこう語ります。「その土地が持つ独自の文化を振り返り、誇りを新たにする。手作りの良さを思い起こす。そして、合併1周年を節目に大松江市の一員としてさらなる飛躍を遂げる。それぞれの思いがいっぱいに詰まっています」。「黄泉比良坂」 は決しておどろおどろした所ではなく、再生の場所との新たなメッセージも付け加えられるとか。見どころ満載のミュージカル「黄泉比良坂」公演は、21日午後5時開場、同6時開演。

(瑛)
問い合わせ先
東出雲町ふるさと発見実行委員会事務局(TEL0852-52-5771または55-5841)
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