市報松江 2020.2

コラム神国の首都Vol.123

 毛髪量で圧倒的優位に立つ孫。驚異的なスピードで伸びるのが小憎たらしくもあり、密林状態の頭に向かって、つい叫んでしまうのです。「オーイ 横井庄一さん 早く出ていらっしゃい」と。
 横井さんは、終戦を知らずにグアム島の密林で独り生活し、敗戦から27年後に発見されて帰還した元日本兵。帰国して最初に発した言葉が「恥ずかしながら帰ってまいりました」でした。「生きて虜囚の辱めを受けず…」の戦陣訓が体の芯まで染みついた横井さんにとって、敵に捕まるのは恥以外のなにものでもなく、密林に身を潜めて生きながらえていたのです。

手作り絵本に挑戦

 「とつぜんお便りを差し上げる失礼をお許しください」。手紙に2冊の絵本が添えられた郵便物が届きました。送り主は愛知県一宮市に住み、娘二人を持つ主婦のK・E子さん。面識はなかったのですが、温かい人柄がにじみ出る文面を読み進めるほどに………。
 地元の児童館で絵本の読み聞かせのボランティアをしているE子さんは、市販の絵本と実話では子どもたちの反応が違うことに気づきます。「本当にあった話にはとても興味を示し、真剣に聴いてくれます」。そこで、以前ホームヘルパーとして身の回りの世話をしていた老婆が空襲に遭った体験談を絵本にしようと思い立ち、子どもたちに分かりやすいようにと独学で切り絵も学びます。自ら文を紡ぎ、切り絵を挿入した最初の手作り絵本が「いのちをひろって」。平成27年に30冊を自費出版します。

貫く子ども目線

 そして、3年後に出版した2作目が「よこいしょういちさん」でした。子どもをひきつける実話にこだわるE子さんの取材は半端ではありません。本人や関係者への聴き取りはもちろん、文献や資料を読み漁って事実を確認し、空襲の中、老婆が逃げ惑った足跡を自ら足を棒にしてたどります。
 徹底した取材をもとに、E子さんならではの世界を描き始めます。「あなたは、ねずみを食べたことがありますか? かえるを食べたことはありますか? でんでんむしは?(略)地面に穴をほって そこに住むことはできますか? それも たった ひとりきりで」。冒頭の文と、暗闇でうごめくカエルやカタツムリの切り絵が子どもたちを「よこいしょういちさん」の世界に一気に引き込んでいきます。

次は奇跡の椰子(やし)の実

 いただいた手紙の要点は、3作目に「奇跡の椰子の実」を考えているとのことでした。終戦の1年前、フィリピンのマニラ湾に出雲市出身の軍属が同郷の友の名をしるした椰子の実を流します。椰子の実は海原を31年漂った末に大社湾にたどり着き、宛名の友の元に届けられます。以前、小欄で紹介したことがあり、資料などを調べているうちに拙文を目にしたというわけです。
 私用で来松したE子さんとお会いすることができました。不思議なことに、不案内な道を車で走り回っているうちに大社湾までたどり着いたといいます。聞けば、E子さんのお父さんは雲南市三刀屋町の出身で、松江に生まれ三刀屋町で育った故永井隆博士とも少なからぬ縁があるそうで、「戦争」と「平和」を軸にして重なり合う縁に2人ともただ驚くばかりでした。「制作に何年かかるかわかりませんが」と言いながらも、持参した3作目の表紙と裏表紙の切り絵を見せてくれたE子さん。不思議ですてきな出会いでした。 (瑛)

シリーズ「松江の匠」
一般、各団体から被表彰者の推薦を募集し、選考委員会の審査を経て、
昨年11月25日に表彰式を開催しました。
受賞者は次の皆さんです。おめでとうございます。 【功労賞(30年以上従事者)】
竹内 洋介氏(左官業)(写真1列目左から6人目)
【奨励賞(15~29年従事者)】
鶴田 孝太郎氏(洋菓子製造業)(写真1列目左から7人目)
眞田 一志氏(和・洋菓子製造業)(写真1列目左から3人目)
石倉 泰男氏(畳製造業)(写真1列目左から2人目)
上田 忠博氏(左官業)(写真2列目左から6人目)
周藤 昌宏氏(造園業)(写真2列目左から5人目)
糸賀 敦史氏(伝統料理)(写真2列目左から4人目)
尾野 友彦氏(陶器加工業)(写真2列目左から3人目)
【問い合わせ】まつえ産業支援センター 電話:60-7101
このページの先頭へ戻る