市報松江 2016.5

コラム神国の首都Vol.78

薫風さわやかな5月、市内灘町にある障がい者グループホーム「白潟ハウス」から朝晩、バイオリンの演奏が漏れ聞こえてきます。「G線上のアリア」で知られるバッハの「管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068」、ハイドン、ブラームスの管弦四重奏曲…。分厚い音は部屋の空気を震わせ、廊下や部屋に流れて聴く人の心に染み入ります。「心地よくて、耳を澄ませるんですよ」「至福の時間。毎日がコンサート」と宿泊利用者ら。聴く人をこれほどまでに魅了する奏者とは一体誰なのか―。

住人は世界的な音楽家

26年師走、バイオリンを手にやって来た男性が3階の部屋に住み始めます。ジャージ姿で、気取らぬ話しぶり。「誰?」と宿泊利用者。人懐っこいFさんが話しかけます。「バイオリンをやっているんですか?」「ちょっとね」が最初の会話。「じゃあ、妖怪ウオッチを弾いてください」「その曲は知らないけど、自己紹介を兼ねて聴いてもらおうか」。
数日後の夜、食堂に集まった関係者や地元の人たち60人を前に、男性は自己紹介を始めます。「朝枝です。ドイツに住んでおり、心臓の治療のため来ました」。何と、マンハイム国立歌劇場管弦楽団コンサートマスターを19年間務めるなど世界的なバイオリニストの朝枝信彦さん(60)、その人だったのです。バッハの「無伴奏」を弾き始めると、皆があ然。「聴いたこともない音色」「鳥肌が立った」。腰が抜けるほどの衝撃を受けたといいます。

「松江が一番好きなまち」

朝枝さんに治療先を紹介したのは、「ドイツで知り合って以来、30数年の知己」(朝枝さん)という松江の男性。病もほぼ治り、「松江の風土や空気感、人に食すべてに魅了された」朝枝さんは、飛び切りのプランを思いつき、すぐ実行に移します。「松江クラシックス2015」。昨年5月から12月29日まで12回、「白潟ハウス」はもちろん市内の学校や市民活動センター、隠岐・知夫村まで足を運びコンサートを開いたのです。
5月20日から始まる今年の「松江クラシックス」は格段にバージョンアップし、朝枝さんの人脈を生かしてドイツから著名な指揮者や2人のソリストを招き、国内のトッププレイヤー、さらに市民も巻き込むという熱の入れようです。しかも、これも朝枝さんの思いから、入場料が信じられないほど安いのです。

松江の音楽を世界に発信

「松江ならではのコンサート(松江クラシックス)を根付かせたい」と朝枝さんは熱く語ります。松江ならではとは、国内外の著名な音楽家と地元の人たちによる手作りのコンサートであり、それを地元の人たちが聴き、育て、やがて世界にその存在を知らしめる。それだけではありません。著名な音楽家と市民が交わることで松江の音楽をレベルアップさせ、子どもたちの音楽留学に道筋をつける。「松江クラシックスをドイツで公演できたらいいなあ。きっとできますよ」。すごい助っ人が現れました。(瑛)

「松江クラシックス2016」の詳細は市報25ページに載っています。
シリーズ景観49
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