市報松江 2018.11

コラム神国の首都Vol.108

「どうして日本人は冷たい弁当を喜んで食べるのか?」。最近、評判になっているNHK総合テレビのクイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる」ではありませんが、お昼に弁当箱を開くたびに、真冬でも冷え切ったご飯やおかずを文句も言わずに食べる不思議さ。おかずの半分以上は前の晩の残り物と知りつつ、時に顔がほころんでしまう弁当マジック。「ボーと生きてんじゃねえよ!」と顔を真っ赤にして怒ったチコちゃんなら、「日本人が普段食べるコメはジャポニカ米で、諸外国のインディカ米などと比べて、冷めても味があまり落ちないから」と自慢げに博識ぶり?を披露するところでしょうが、弁当の力はそんなものじゃありません。実は、もっともっと奥深いことを知らされたのです。

弁当がテーマの展覧会

東京は上野公園内の東京都美術館であった「おべんとう展」。弁当が展覧会のテーマになるのか、どうせ梅干しの酸で穴の開いたアルミの弁当箱など、いろんな弁当箱のオンパレード程度と高をくくり、興味本位でのぞいたのですが、さにあらず。そこには、9人のアーティストがあの手この手で「お弁当」にアプローチした「お弁当ワールド」があり、思いのほか長居してしまいました。
その一人、オランダ人の女性アーティストの作品。細長い布が垂れ下がった“ジャングル”に入ると「水の精」がささやきかけます。「しっかりと足を地につけ背筋を伸ばす。そう、あなたは一本の稲穂。あなたから100粒の子どもが生まれ、お弁当の主役になるのです」。普段とは違う視点で弁当をとらえて想像力をかき立てる“ジャングル”がいくつもあり、発想の転換にうなってしまいました。

人をつなげるツール

もちろん、真ん中に穴の開いた弁当箱や、舟形や御殿のような弁当箱、諸外国の弁当箱もあるにはありました。が、食べる姿を想像しながら弁当を作る人と、作った人を思い浮べながら感謝の思いで食べる人との、目には見えない繋がり・物語を主軸にした展覧会のコンセプトに感じ入ってしまったのです。
あるアーティストは、普段は弁当を食べる側の世の父親たちに、子どもが指示する弁当を作らせていました。題して「お父ちゃん弁当」。ところが、子どもたちの指示が「火山」「蛇行する川」「地層」と半端ではなく、ずらり並んだ奇抜な弁当の写真から、弁当作りに悪戦苦闘する父親の姿を思い浮べ、ここで立ち止まることしばし。

冷めてもおいしいわけ

弁当箱が数個置かれたちゃぶ台に、何これ?弁当箱を開ければ、小さな画面に映像が映し出され、またまた何これ?中学生が親の手を借りずに自分でメニューを考えて、買い出しから弁当を作る様子を、仲間の中学生がドキュメンタリー映像にしたもので、これには見入ってしまいました。その弁当を持ち寄って食べた男子生徒の一言が秀逸でした。「冷たくて、まずい。けど、お母さんの弁当は冷めていてもすごくおいしい」。
そう、日本人が弁当を喜んで食べるのは、お弁当は家族にとって大事なコミュニケーション・ツールだからなのです。ボーと生きているかもしれないけど、チコちゃん、それが正解なのです。
(瑛)

シリーズ景観64
No.135波入港親水公園から中海を望む
このページの先頭へ戻る